クリニックの消費税で迷う7場面|非課税・課税・控除の判定

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「保険診療は非課税だから、うちは消費税と関係ない」と思っていたのに、健診や予防接種が増えた年に申告が必要だと言われた。医療機器を買ったのに、払った消費税がほとんど戻らなかった。クリニックの消費税は、一般の会社と違って非課税と課税が混ざるため、判断に迷う場面が決まっています。この記事では、クリニックの消費税で迷いやすい7つの場面を、非課税・課税・控除の3つの切り口で整理しました。読み終えると、自院のどの収入に消費税がかかり、いくら控除できるのかの見当がつきます。

■ この記事の結論(先にお伝えします)

  • ・保険診療は、保険者からの入金も患者の窓口一部負担金も非課税。労災・自賠責・公費負担医療も非課税
  • ・自費の健康診断・予防接種・診断書の作成・美容目的の診療は原則として課税。市販薬の販売も課税
  • ・消費税の納税義務は「今年の売上」ではなく、基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定し、特定期間やインボイス登録でも変わる
  • ・設備投資で払った消費税は、課税売上割合が95%未満だと用途に応じた按分計算になる。保険診療にも使う共用の設備は課税売上割合の分しか控除できず、保険診療中心のクリニックは控除額が小さくなる
  • ・課税事業者で基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら、簡易課税(医療業は第5種・みなし仕入率50%)と一般課税の有利不利を届出期限までに比べる

クリニックの消費税の基本|非課税と課税の線引き

クリニックの消費税の基本のイメージ画像

クリニックの売上は、消費税の扱いで3つに分かれます。非課税売上、課税売上、そして消費税の対象外の収入です。

区分 主な内容 消費税
非課税売上 健康保険・国民健康保険などによる療養の給付(窓口の一部負担金を含む)、労災、自賠責、公費負担医療 かからない
課税売上 自費の健康診断、予防接種、診断書の作成、美容目的の診療、市販薬や物品の販売 かかる
対象外 補助金、寄付金、保険金など対価性のない収入 対象外

線引きの根拠は消費税法の別表第二にあり、「社会保険医療の給付等」が非課税と定められています。何が含まれるかは国税庁の消費税法基本通達6-6(医療の給付等関係)に列挙されており、健康保険法などに基づく療養の給付のほか、労災保険、自賠責保険の対象となる療養、公費負担医療まで非課税に含まれます。逆に、これらに当たらない診療やサービスは原則として課税です。

「患者が全額自己負担している」かどうかは判定の基準ではありません。保険診療の窓口負担も非課税ですし、自費でも保険外併用療養費の対象となる療養は所定の範囲で非課税です。正常分娩など助産に係る取引にも非課税の規定があります。逆に、差額ベッド代などの特別料金には課税になる部分があります。判定は「どの法律に基づく給付か」で行います。この基本を押さえたうえで、迷いやすい7つの場面を順に見ていきます。

場面1:保険診療の窓口負担金は非課税

保険診療の窓口負担金は非課税のイメージ画像

最初に迷いやすいのが、患者が窓口で支払う一部負担金です。「患者から直接受け取るお金だから課税では」と考える方がいますが、非課税です。

保険診療の対価は、審査支払機関から入金される分と、患者が窓口で支払う分に分かれます。どちらも健康保険法などに基づく療養の給付の対価であり、支払う人が保険者か患者かで扱いは変わりません。通達6-6-3は、保険外併用療養費や療養費の支給に係る療養について「被保険者が負担する一部負担金に係る療養も含まれる」と明記しています。

会計上は、窓口の現金収入も審査支払機関からの入金も、同じ「保険診療収入」として非課税売上に計上します。レセコンの日計表で自費と保険を分けて集計しておけば、月次の段階で区分が固まります。

ただし例外があります。差額ベッド代や、保険外併用療養費の制度で患者が選択して支払う特別な費用(いわゆる選定療養の自己負担部分)は、財務大臣が定める金額を超える部分が課税になります。診療所では差額ベッドは少ないものの、予約診療や時間外の特別料金を設定している場合は確認が必要です。

場面2:健診・予防接種・診断書は課税

健診・予防接種・診断書は課税のイメージ画像

2つ目は、保険診療以外の医療サービスです。自費の健康診断、人間ドック、任意の予防接種、診断書や証明書の作成料、美容目的の診療は、社会保険医療の給付等に当たらないため原則として課税です。

見落としやすいのは次の収入です。

  • 企業健診・入社時健診。企業から受け取る健診料は課税売上です
  • インフルエンザなどの任意の予防接種。自治体の助成があっても、患者や企業から受け取る接種料は課税です
  • 診断書・意見書の作成料。生命保険会社への診断書、就労証明などの文書料は課税です
  • 産業医・学校医の報酬。委嘱契約の内容によって、給与所得となり消費税の対象外になる場合と、事業として行う役務の提供として課税になる場合があります

自治体から委託を受けて行う定期予防接種や特定健診も、委託料は原則として課税売上です。患者の自己負担がなくても扱いは変わりません。生活保護の医療扶助など法令で非課税とされる公費負担医療(場面3)とは区別し、対価性のない補助金とも分けて集計します。「行政の事業だから非課税」とは決まらないので、契約書や委託要綱で給付の性質を確認します。

これらの課税売上が年間でいくらあるかが、次の場面5で説明する納税義務の判定に直結します。健診や予防接種の比率が高いクリニックは、保険診療が中心でも課税事業者になることがあります。

場面3:労災・自賠責・公費負担医療は非課税

労災・自賠責・公費負担医療は非課税のイメージ画像

3つ目は、健康保険以外の制度で支払われる診療です。「保険診療ではないから課税」と誤りやすい場面ですが、次はいずれも非課税です。

  • 労災保険の療養の給付と療養の費用の支給に係る療養
  • 自賠責保険の損害賠償額の支払を受けるべき被害者に対する療養(交通事故の診療)
  • 公費負担医療(生活保護の医療扶助、自立支援医療、公害健康被害の補償など、国や自治体が費用を負担する医療)

通達6-6-1が、これらを健康保険法などによる療養と並べて非課税の範囲に含めています。交通事故の患者を自由診療の単価で請求している場合でも、自賠責保険から損害賠償として支払われる療養であれば非課税です。

注意したいのは、労災・自賠責の「治療」以外の部分です。後遺障害診断書や保険会社向けの診断書・明細書などの文書料は、療養そのものではないため課税として扱うのが一般的です。診療と文書料を分けて計上しておくと、後で区分に迷いません。

場面4:医薬品・物品販売と自費診療の区分

医薬品・物品販売と自費診療の区分のイメージ画像

4つ目は、診療に付随して受け取る物品代です。通達6-6-2は、健康保険法などに基づく療養として給付される医薬品や医療用具は非課税、それに当たらない医薬品の販売や医療用具の販売は課税と分けています。

クリニックで実際に出てくる例です。

収入 扱い
保険診療の中で処方・使用する薬剤・材料 非課税(療養の給付に含まれる)
待合室で販売する市販薬・サプリメント・スキンケア用品 課税
自費診療で使う薬剤・材料の代金 課税(自費診療の対価の一部)
義肢・車椅子など一定の身体障害者用物品 非課税(別の規定による)

美容施術や歯科の自費補綴・インプラントなど課税となる自費診療では、「診療料」と「材料代」が混ざっていてもどちらも課税売上です。材料代を「物販だから」と別扱いにする必要はなく、まとめて課税売上として集計します。自費でも助産や保険外併用療養費の対象となる療養は非課税なので、自費かどうかだけでは決めず、場面の基本で示した線引きに戻って判定します。

区分で迷うのは、保険診療と自費診療を同じ日に行った患者の会計です。レセコンで保険分と自費分を分けて請求し、日計表でも別の欄に集計する運用にしておくと、決算時に遡って分ける手間がなくなります。

場面5:納税義務の判定(基準期間と特定期間)

納税義務の判定のイメージ画像

5つ目は「うちは消費税を納める必要があるのか」という判定です。ここで多い誤解が「今年の自費売上が1,000万円を超えたら今年から納税」というものです。判定は今年の売上ではなく、過去の課税売上高で行います。

原則は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかです。基準期間は個人事業者なら前々年、事業年度が1年の法人なら前々事業年度です。課税売上高には、健診・予防接種・診断書・自費診療・物品販売などの課税売上だけを含め、保険診療などの非課税売上は含めません。

基準期間で1,000万円以下でも、次の場合は課税事業者になります。

  • 特定期間の判定。個人は前年の1月1日〜6月30日、法人は原則として前事業年度開始から6か月の課税売上高が1,000万円を超える場合。この判定では課税売上高に代えて給与等支払額を使うこともできます
  • インボイス発行事業者の登録。登録すると基準期間の売上にかかわらず課税事業者になります
  • 課税事業者選択届出書を提出している場合
  • 新設法人・高額な資産の取得。基準期間のない法人で期首の資本金・出資金が1,000万円以上の場合などは免税になりません。一般課税の期間に税抜1,000万円以上の高額特定資産を取得すると、その後一定期間は免税や簡易課税への変更が制限されます。医療法人化や大型の設備投資の際は、この点も判定に含めます

判定の詳細は国税庁のNo.6501 納税義務の免除にまとまっています。

インボイス登録をするかどうかは、企業健診や産業医契約など、事業者相手の課税売上があるクリニックで論点になります。取引先が仕入税額控除を必要とするかどうかで判断が変わるため、クリニックのインボイス制度|保険診療と自由診療の違いは?で整理しています。

場面6:設備投資の消費税は全額控除できるか

設備投資の消費税は全額控除できるかのイメージ画像

6つ目は、課税事業者になった後の話です。レントゲンや電子カルテ、内装工事で払った消費税のうち、売上にかかる消費税から差し引ける額(仕入税額控除)がどれだけあるか。控除額がそのまま現金で戻るわけではありませんが、納税額を直接左右します。一般の会社なら「払った消費税は原則全額控除」ですが、クリニックはそうなりません。

理由は課税売上割合です。その課税期間の課税売上高と非課税売上高の合計に占める課税売上高の割合(税抜で計算し、補助金など対価性のない収入は含めません)で、保険診療収入の比率が高いほど低くなります。国税庁のNo.6401 仕入控除税額の計算方法のとおり、一般課税で帳簿・インボイスの保存要件を満たした課税仕入れは、課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が5億円以下の課税期間なら全額控除できます。課税売上割合が95%未満、または課税売上高が5億円を超える場合は、次のどちらかで計算します。

  • 個別対応方式。払った消費税を「課税売上のためだけ」「非課税売上のためだけ」「両方に共通」の3つに分け、課税売上専用の分は全額、非課税売上専用の分は控除なし、共通分は課税売上割合を掛けた分だけ控除する。用途別の区分が必要
  • 一括比例配分方式。払った消費税の合計に課税売上割合を掛けた分だけ控除する。一度選ぶと原則2年以上続けないと個別対応方式に戻れない

たとえば税抜600万円の医療機器(消費税60万円)を買い、課税売上割合が20%のクリニックが一括比例配分方式を使うと、控除できるのは12万円で、残りの48万円は控除対象外になります。保険診療にも自費診療にも使う機器なら、個別対応方式でも共通分として同じ割合が掛かります。控除対象外になった48万円は、税抜経理では機器の取得価額に含めて減価償却する方法のほか、繰延消費税額等として原則5年で費用化する方法があり、金額や課税売上割合によっては当期の経費にできる場合もあります。

設備投資の判断では、機器の本体価格だけでなく、この「控除できない消費税」を含めた負担で比べる必要があります。機器の耐用年数や特例の考え方は中野区で医科の税理士へ|高額な医療機器を買う前の5つの確認で解説しています。

場面7:簡易課税と特例の選択(第5種50%)

簡易課税と特例の選択のイメージ画像

7つ目は、納税額の計算方法の選択です。課税事業者で、基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら、簡易課税制度を選べます。払った消費税を集計せず、課税売上にかかる消費税に「みなし仕入率」を掛けた額を控除する方法です。

医療業は第5種事業で、みなし仕入率は50%です(国税庁No.6509 簡易課税制度の事業区分)。自費診療の消費税が100万円なら、控除は50万円、納税は50万円という計算になります。市販薬などの物品販売は小売業などの別の事業区分になり、複数の区分がある場合は区分ごとに集計します。

簡易課税が有利になりやすいのは、課税売上に対して課税仕入れが少ないクリニックです。場面6のように課税売上割合が低いと、一般課税では払った消費税の大部分が控除できないため、みなし仕入率50%で控除できる簡易課税のほうが納税額が小さくなることがあります。逆に、大きな設備投資をする年は一般課税のほうが有利になることがあります。

選択には手続きの制約があります。

  • 届出期限は原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日まで(No.6505 簡易課税制度
  • 一度選ぶと原則2年間は継続が必要
  • 一定の高額な資産を取得した場合など、簡易課税を選べない期間がある

インボイス登録がなければ免税事業者となるクリニックには、売上にかかる消費税の2割を納税額とする2割特例が、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間まで使えます。ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間や、高額な資産の取得で免税が制限される場合などは対象外です。令和8年度の税制改正では、一定の個人事業者について令和9年分・令和10年分の納税額を売上税額の3割とする3割特例が設けられました。基準期間の課税売上高1,000万円以下などの要件があり、医療法人は対象外です。

簡易課税の届出期限には特例もあります。2割特例や3割特例を適用した翌課税期間は、その申告期限までに届出をすれば簡易課税を適用できます(2割特例の翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合は、その課税期間の末日まで)。

有利不利は年ごとに変わります。制度の仕組みは消費税の簡易課税をやさしく解説で、自院の数字での比較は消費税 有利判定シミュレーションで確認できます。

クリニックの消費税を任せる税理士の選び方

クリニックの消費税を任せる税理士の選び方のイメージ画像

7つの場面に共通するのは、「区分を日々の記帳の段階で正しく分けているか」と「納税義務と計算方法の判定を、期限の前に済ませているか」の2点です。決算になってから1年分の収入を非課税と課税に分け直すのは手間がかかり、簡易課税の届出は原則として適用したい課税期間が始まる前に済ませておく必要があります。

税理士に確認したいのは次の点です。

  • レセコンの日計表と会計データで、保険・自費・物販・文書料が分かれて集計されているか
  • 基準期間と特定期間の課税売上高を毎年確認し、課税事業者になる年を事前に知らせてくれるか
  • 設備投資の前に、控除できない消費税を含めた負担額を試算してくれるか
  • 簡易課税と一般課税の有利不利を、届出期限の前に比較してくれるか

当事務所は医科・歯科クリニックの税務を得意とする税理士事務所として、日々の記帳から確定申告、6か月ごとの決算予測まで一貫してサポートしています。消費税の区分と有利判定は決算予測の段階で行っていますので、納税義務の判定や簡易課税の選択に迷う先生はお気軽にお問い合わせください。初回のご相談は無料です。

決算予測の考え方はクリニックの決算予測はいつ?で、対応エリアは対応エリア一覧でご確認ください。

【まとめ】クリニックの消費税の7場面を解説しました

クリニックの消費税の7場面のまとめのイメージ画像

クリニックの消費税で迷う7つの場面を整理しました。

  • ・保険診療は窓口の一部負担金を含めて非課税であり、労災・自賠責・公費負担医療も非課税である
  • ・自費の健診・予防接種・診断書・美容目的の診療・市販薬の販売は原則として課税である
  • ・納税義務は基準期間の課税売上高1,000万円で判定し、特定期間やインボイス登録でも課税事業者になる
  • ・課税売上割合が95%未満だと共用の設備の消費税は按分でしか控除できず、控除対象外の分だけ設備投資の負担が増える
  • ・簡易課税(医療業は第5種・50%)は届出期限までに一般課税と比べて選ぶものである

今すぐできることは、基準期間と特定期間に対応する課税売上高(健診・予防接種・文書料・課税となる自費診療・物販に、医療機器など事業用資産の売却も含める)を集計することです。1,000万円に近ければ、納税義務が生じる年と簡易課税の届出期限を今のうちに確認します。

当事務所は医科・歯科クリニックの税務を得意とする税理士事務所です。消費税の区分の設計から納税義務の判定、簡易課税の有利不利、設備投資時の控除額の試算まで、日々の記帳と決算予測の中で対応しています。消費税に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 保険診療しかしていないクリニックでも消費税の申告は必要ですか?

保険診療収入そのものに消費税はかかりません。ただし課税事業者かどうかは今年の収入だけでは決まらず、基準期間・特定期間の課税売上高やインボイス登録の有無で判定します。免税事業者なら消費税の申告は不要です。診断書の作成料や市販薬の販売、任意の予防接種は課税売上になるため、年間の合計額を確認してください。

Q2. 自費の売上が今年1,000万円を超えました。今年から消費税を納めますか?

今年の売上だけで今年の納税義務は決まりません。個人事業者では、今年の課税売上高は原則として翌々年の判定に使います。今年については、前々年の課税売上高、前年上半期の特定期間の判定、インボイス登録の有無で確認します。

Q3. 医療機器を買ったのに消費税がほとんど控除されないのはなぜですか?

保険診療が中心で課税売上割合が低いためです。95%未満の場合、保険診療にも使う共用の機器は課税売上割合の分しか控除できず、残りは取得価額に含めて減価償却するか、繰延消費税額等として費用化します。簡易課税を選んでいる年は、そもそも個別の仕入税額は控除しません。

※2026年9月13日時点の情報です。

この記事を書いた人

松村 洋佑(まつむら ようすけ)

税理士(登録番号 145479)/行政書士(登録番号 24083412)

松村洋佑税理士・行政書士事務所 代表。医科・歯科クリニックの税務顧問を専門とし、開業支援から医療法人化・事業承継まで一貫して対応しています。東京都練馬区・西武新宿線武蔵関駅徒歩3分。

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