消費税の簡易課税を税理士がやさしく解説

はじめに

 

 簡易課税は、仕入税額控除を「実額」ではなく“みなし仕入率”で計算する簡便方式です。

帳票負担を軽くできる一方、みなし仕入率と実態の差有利/不利がハッキリ分かれます。とくに、固定資産の購入や材料費が重い業種では原則課税(本則)が有利になりやすく、逆に人件費中心の役務業簡易課税が有利になりやすいのが実務の感覚です。

医科・歯科の医療機関の場合は人件費の割合が大きくなりがちですので、簡易課税有利になるケースが多いですが仕組みを確認し、有利な選択をしていただければと思います。

本記事では、要件→計算式→事業区分→判断軸→届出→数値例→落とし穴の順に、迷わず選べる形で解説します。

簡易課税のキホン

 

  • 使える人(要件)基準期間(基本的には2期前)の課税売上高が5,000万円以下の課税事業者。医療機関においては自費診療や予防接種など税込にする売上の合計。
  • 選び方「簡易課税制度選択届出書」適用したい課税期間の初日の前日までに所轄税務署へ提出。

  • やめ方「簡易課税制度選択不適用届出書」やめたい課税期間の初日の前日までに提出。

  • 2年縛り:原則、選択後2年間は原則課税へ戻せません(不適用届も同様)。

  • 計算イメージ
    納付税額 ≒ 売上に係る消費税 −(売上×みなし仕入率に係る消費税)
    …つまり、売上消費税×(1 − みなし仕入率) の発想です。

  • 複数税率のとき:10%売上と8%(軽減)売上をそれぞれ計算→合算します。

事業区分とみなし仕入率

 

区分 業種の例 みなし仕入率
第1種 卸売業 90%
第2種 小売業・物販 80%
第3種 製造、建設等 70%
第4種 飲食店、農林水産等 60%
第5種 サービス業(医療の自費施術 等) 50%
第6種 不動産業 40%

原則課税との違い

 

  原則課税(本則) 簡易課税
仕入控除 実額(個別対応・一括比例) みなし(売上×率)
帳票負担 重め(適格請求書の収集・保存が必須) 軽め(仕入側の適格請求書の有無に左右されにくい)
投資年 有利になりやすい(高額な課税仕入を実額控除) 不利になりやすい
人件費中心業 控除が伸びにくい 有利になりやすい
変更の柔軟性 届出不要(デフォルト) 届出が必要2年縛り

判断のコツ

 

Step1|基準期間の課税売上高 ≦ 5,000万円?

→ NO:簡易不可。原則課税。

→ YES:Step2へ

Step2|“実態の仕入率”と“みなし仕入率”を比べる

  • 材料・外注・機器投資が厚いなら原則寄り。

  • 人件費中心の役務なら**第5種(50%)**が効き、簡易寄り。

  • 物販比率が高いなら**第2種(80%)**が効き、簡易有利になりやすい。

Step3|翌期以降の“投資予定”を含めて年次設計

  • 高額投資の年に簡易のままだと機会損失になりがち。

  • 逆に投資が落ち着いた年簡易帳票負担削減+納付圧縮の余地。

数値で体感:3つのミニ例

 

例1|役務中心(第5種50%)、課税売上3,000万円、仕入少なめ

  • 売上消費税=300万円

  • 原則:仕入消費税100万円 → 細かい按分で控除が伸びず仮に20万円控除 → 納付280万円

  • 簡易:控除=300万×50%=150万円納付150万円
    簡易が大差で有利(人件費中心の典型)

 

例2|物販が多い(第2種80%)、課税売上2,000万円

  • 売上消費税=200万円

  • 原則:仕入消費税120万円 → 実額控除120万円納付80万円

  • 簡易:控除=200万×80%=160万円納付40万円
    簡易が有利(小売はみなし率が高い)

 

例3|大型機器を購入した年(課税仕入消費税600万円)

  • 課税売上3,000万円 → 売上消費税=300万円

  • 原則実額で600万円の控除余地(按分次第だが大きく控除)→ 納付が極小/還付なしでも実質圧縮

  • 簡易:控除=300万×50%=150万円納付150万円
    原則が圧倒的に有利になり得る。投資年の設計が命

よくある質問

 

Q1. いつまでに届出が必要?
A. 適用したい期の“初日の前日まで”。例:2026/1/1開始なら2025/12/31までに提出。

Q2. 一度選ぶと変えられない?
A. 原則2年間は変更不可。やめたいときは次にやめる期の“初日の前日まで”不適用届を出します。

Q3. 仕入の適格請求書(インボイス)がなくても控除できる?
A. 簡易課税はみなし控除なので仕入側のインボイス有無に左右されません(ただし請求書の管理・保存は必要)。

Q4. 2割特例(インボイス小規模事業者)との関係は?
A. 別枠の特例です。原則・簡易・2割特例同条件で横並び試算し、最小納付となるものを選ぶのが安全です。

Q5. 軽減税率8%の売上があるときの扱いは?
A. 10%売上と8%売上を分けて計算し、区分別にみなし控除→合算します。

よくある落とし穴

  • 届出の“期首前日”を1日でも過ぎる当期は適用不可

  • 複合業態なのに区分を一本化過少(or過大)控除のリスク。

  • 投資年の選択ミス → 簡易のままで控除を取りこぼす

  • 2年縛りの見落とし → 翌期の投資計画と不整合

  • “簡易=必ずラクでお得”の思い込み数字で比較して決める。

まとめ

  • 簡易課税=“売上×みなし仕入率”で控除するシンプル方式。

  • 人件費中心の役務物販比率が高い小売では有利になりやすい一方、高額投資年材料・外注の厚い業種原則課税が有利になりやすい。

  • 届出の期日と2年縛りを外さず、原則/簡易/数字で比較して選びましょう。

 医療機関においては原則計算の場合は課税売上割合の考え方も必要になります。大規模投資をする場合には詳細なシュミレーションが必要になることもあります。

 弊所では医療機関様向けに原則と簡易のシュミレーションも行っています。是非お気軽にお問い合わせください。

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