〒177-0051 東京都練馬区関町北2-29-14ドエール武蔵関2階
(西武新宿線武蔵関駅から徒歩3分)
自宅とクリニックを兼用している、車を診療とプライベート両方で使っている——そんな開業医の方は、家賃や水道光熱費、車両費の一部を経費にできる「家事按分」を活用できます。本記事では家事按分の基本的な考え方から、按分できる費目・できない費目、面積や時間を使った具体的な計算方法、税務調査で否認されないための注意点までを税理士がわかりやすく解説します。
■ この記事の結論(先にお伝えします)
事業の収入を得るために必要な費用や、業務上必要な費用は、税務上「必要経費」として所得から差し引くことができます。ただし、自宅を診療所と兼用している場合や、車を業務とプライベートの両方に使っている場合は、家賃や水道光熱費、車両費のすべてを経費にはできません。プライベートで使っている部分が含まれているためです。
こうした「事業用とプライベート用が混ざった支出」を、使用割合に応じて按分し、事業に対応する部分だけを経費として計上する方法を「家事按分」と呼びます。按分の基準になるのは、部屋の床面積や実際の使用時間など、客観的に説明できる数字です。感覚で「だいたい7割くらい仕事で使っている」と決めるのではなく、根拠を持って比率を算出することが必要になります。
家事関連費は、業務上必要な部分を明らかに区分できる場合、その部分を必要経費に算入できます。按分割合について一律の基準があるわけではなく、床面積や使用時間、使用実績など、実態に即した合理的な基準で区分することが重要です。なお、所得税基本通達では、業務上必要な部分が50%以下であっても、その必要な部分を明らかに区分できる場合には、その部分を必要経費に算入して差し支えないとされています。
家事按分の対象になる費用は多岐にわたります。ここでは代表的な4つの費目について、按分の考え方を見ていきます。
自宅の一室を診療所や事務作業スペースとして使用している場合、業務専用部分の床面積などを基準として、家賃のうち業務上必要な部分を経費にできます。プライベートでも使用するスペースについては、床面積だけでなく使用時間や利用状況なども踏まえて合理的に按分する必要があります。自宅兼クリニックでなくても、自宅で自身のクリニックに関する事務作業などを行っている場合には、業務上必要な部分を合理的に区分できれば対象になることがあります。なお、他の医療機関に勤務して給与を受け取る「勤務医」としての業務については、個人事業の必要経費と同じように自宅家賃等を按分できるわけではないため注意が必要です(複数の勤務先がある場合の申告の考え方は医師の確定申告(複数勤務・副業の申告)も参考にしてください)。電気代・ガス代・水道代も同様に、業務で使用した時間や範囲に応じて按分します。診療で使用する医療機器の電力消費が大きい場合には、その使用状況や消費電力などを合理的に把握できれば、その実態を按分割合に反映できることもあります。
スマートフォンやインターネット回線を診療の連絡や予約管理、オンライン診療などに使っている場合、通信費のうち業務利用分を経費にできます。車をクリニックへの通勤や往診、医療機器の搬入などに使っているなら、ガソリン代・駐車場代・自動車保険料・車検費用なども按分の対象です。プライベートでの買い物や家族の送迎に使う割合が大きい車の場合は、その分を差し引いて按分比率を決める必要があります。
日常生活のための食費や私服などの衣服費、個人的な趣味・娯楽にかかる支出は家事費に当たるため、原則として経費にできません。一方、業務との直接的な関連性が明確な飲食費や、業務上必要な白衣・ユニフォームなどは、家事按分とは別に必要経費となる場合があります。生計を一にする家族に支払う家賃は、原則として必要経費になりません(所得税法56条)。ただし、その家族が所有する土地・建物を事業に使用している場合には、固定資産税など、その資産にかかる費用のうち事業使用部分を事業主側の必要経費に算入できる場合があります。自宅の家具・家電のうち、診療や業務に直接使わないもの(寝室のベッドやリビングのテレビなど)も対象外です。
判断に迷うのは、事業用途とプライベート用途の境界がはっきりしない支出です。たとえば自宅の応接スペースを患者向けの相談に利用している場合でも、使用頻度が低いのであれば高い按分比率を設定することは説明しにくくなります。使用頻度や利用時間など、実際の使用状況に応じて合理的な割合を設定することが重要です。
按分比率の決め方に法律で定められた計算式はありません。重要なのは、誰が見ても納得できる合理的な基準を使うことです。代表的な2つの方法を紹介します。
自宅の家賃を按分する場合によく使われるのが床面積の割合です。自宅全体の床面積のうち、診療スペースや事務作業スペースとして使っている面積の割合を算出し、その割合を家賃にかけて経費分を求めます。たとえば自宅全体が60平方メートルで、業務スペースが12平方メートルなら、按分比率は20%です。間取り図や賃貸借契約書を保存しておくと、比率の根拠を説明しやすくなります。なお、水道光熱費については、床面積だけでなく、使用時間や設備・機器の利用状況など、費用の性質に応じた合理的な基準を用います。
車両費やインターネット回線など、面積で区切りにくい費用については、費用の性質に応じて使用時間、走行距離、利用日数などから合理的な基準を選びます。たとえば車を1週間で20時間使い、うち診療関連の移動が12時間であれば、使用時間を基準とした按分比率は60%です。ガソリン代などについては、業務で走行した距離と総走行距離の割合を用いる方が実態に合う場合もあります。走行記録や訪問診療のスケジュールを残しておくと、按分比率の根拠として使えます。
面積、使用時間、走行距離など、どの基準を使うかは費用の性質によって決めます。迷った場合は、より実態に近く、かつ記録を残しやすい方法を選ぶことがポイントです。
家事按分を適切に行う最大のメリットは、実態に見合った経費を漏れなく計上できることです。自宅兼用の家賃や車両費を「面倒だから」とすべて経費計上しない開業医もいますが、業務で使っている部分まで諦めてしまうのはもったいないことです。按分比率を客観的な根拠とともに算出しておけば、無理なく必要経費として計上できます。家事按分による経費計上は、青色申告の5つのメリットとあわせて活用することで、所得の圧縮効果をさらに高められます。
もう一つのメリットは、按分比率を見直す機会を持てることです。診療スケジュールや自宅・車の利用状況に変化があった場合には、実態に合わせて見直すことで、経費計上額のズレを防げます。
経費の範囲や按分比率は、事業の状況によって最適な形が変わります。当事務所は医療機関専門の税理士事務所として、日々の記帳から確定申告、6か月ごとの決算予測まで一貫してサポートしています。家事按分を含めた経費の考え方についてのご相談はお気軽にお問い合わせください。
家事按分については、税務調査で按分比率やその根拠を確認されることがあります。確認された際に適切に説明できるよう、押さえておきたいポイントを整理します。
按分比率を裏付ける記録を残しておくことが基本です。間取り図、賃貸借契約書、走行記録、業務スケジュールなど、比率の根拠になる資料を保存しておきます。口頭で「だいたいこのくらい」と説明するだけでは、税務調査で必要経費として認められない可能性があります。
按分比率が不自然に高い場合も指摘の対象になります。たとえば自宅全体の面積のうち業務スペースが1割程度しかないのに、家賃の8割を経費にしているようなケースです。実態とかけ離れた比率は、根拠資料があったとしても合理性が認められない部分について必要経費から除外される可能性があります。
生計を一にする親族に支払う給与も原則として必要経費にはなりません。ただし、青色申告の場合は一定の要件を満たす「青色事業専従者給与」を必要経費にできる特例があります。また、白色申告の場合は、実際に支払った給与を経費にするのではなく、一定の要件のもとで「事業専従者控除」の金額を必要経費とみなす制度があります。
経理処理の際には、按分割合やその計算根拠が後から確認できるよう記録を残しておくことも重要です。事業用とプライベート用を区分して記帳し、按分が必要な支出については、その計算方法や根拠を継続的に記録しておくと、税務調査の際にも説明しやすくなります。
家事按分の基本的な考え方は難しくありませんが、実際の比率を決める場面では判断に迷うケースが少なくありません。特に開業したばかりで自宅とクリニックの使い方が固まっていない場合や、複数の費目が絡み合っている場合は、自己判断だけで比率を決めるとリスクが残ります。
按分比率は一度決めたら終わりではなく、事業の状況に合わせて見直しが必要なものです。開業時の按分比率をそのまま何年も使い続けていると、実態とのズレが大きくなり、税務調査で確認された際に十分な説明ができなくなることがあります。定期的に経理状況を確認できる税理士がいれば、按分比率の妥当性を継続的にチェックできます。
自分で判断できる範囲か、専門家に相談すべき範囲かを見極める基準のひとつは、按分比率が経費全体に占める金額の大きさです。地代家賃や車両費など金額が大きい費目ほど、按分比率のわずかな違いが税額に影響します。金額の大きい費目については、開業段階から税理士に相談し、根拠資料の残し方まで含めてルールを整えておくと安心です。税理士へ相談を始めるタイミングの目安はクリニック開業で税理士はいつから?依頼時期の目安を解説で詳しく解説しています。
まずは自宅やクリニックでの費用の使い方を書き出し、按分の根拠になる資料が揃っているか確認することから始めてみましょう。当事務所は医療機関専門の税理士事務所として、日々の記帳から確定申告、6か月ごとの決算予測まで一貫してサポートしています。家事按分を含めた経費の整理についてのご相談はお気軽にお問い合わせください。対応エリアの詳細は対応エリア一覧をご覧ください。
Q1. 家事按分の比率に決まりはありますか?
法律で定められた計算式はありません。床面積や使用時間、使用実績など、客観的に説明できる合理的な基準をもとに算出します。
Q2. 按分比率を高くしすぎるとどうなりますか?
実態とかけ離れた比率を設定している場合、税務調査などで按分割合の合理性を確認され、過大な部分が必要経費として認められないことがあります。その結果、所得税等の追加負担が生じる場合があります。
Q3. 医療法人化すると家事按分は不要になりますか?
個人事業主における「家事関連費の按分」と同じ考え方では処理しませんが、法人の費用と理事長個人の費用を明確に区分する必要があります。たとえば法人が理事長個人の自宅や車などを利用する場合には、利用実態に応じた契約や費用負担を検討する必要があります。また、法人が個人的な費用まで負担すると、役員に対する給与として扱われる場合があるため注意が必要です。
2026年9月24日時点の情報です。
この記事を書いた人
松村 洋佑(まつむら ようすけ)
税理士(登録番号 145479)/行政書士(登録番号 24083412)
松村洋佑税理士・行政書士事務所 代表。医科・歯科クリニックの税務顧問を専門とし、開業支援から医療法人化・事業承継まで一貫して対応しています。東京都練馬区・西武新宿線武蔵関駅徒歩3分。
お電話でのお問合せ・相談予約
<受付時間>
9:00~18:00
※土曜・日曜・祝日は除く
フォームは24時間受付中です。お気軽にご連絡ください。