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開業して個人で確定申告をする医師・歯科医師にとって、青色申告は手間をかける分だけ税負担を抑えられる制度です。複式簿記や申請期限などの要件を外すと、最大65万円の控除を受けられないこともあります。この記事では青色申告の5つのメリットと気を付けたい点、始める手順を、税務調査で問われても困らない水準で解説します。読み終えれば、自分が何を得られるか、いつ何を提出すればよいかがわかります。
■ この記事の結論(先にお伝えします)
青色申告は、帳簿を正しくつけることと引き換えに、税金の計算でいくつもの優遇を受けられる申告方法です(国税庁 No.2070 青色申告制度)。まずは白色申告との違いと、青色申告を選べる人を確認します。
確定申告のやり方には青色申告と白色申告の2つがあります。白色申告は事前の手続きがいらず、記帳も簡易な方式で済みますが、税金面の優遇はほとんどありません。青色申告は事前に税務署へ申請し、原則として複式簿記で帳簿をつける必要があります。手間は増えるものの、青色申告特別控除をはじめとする優遇が受けられます。
| 項目 | 白色申告 | 青色申告 |
|---|---|---|
| 事前の申請 | 不要 | 「所得税の青色申告承認申請書」が必要 |
| 記帳の方法 | 簡易な記帳 | 原則、複式簿記 |
| 青色申告特別控除 | なし | 10万円・55万円・最大65万円 |
| 家族への給与 | 事業専従者控除(配偶者86万円・その他50万円が上限) | 青色事業専従者給与(届出の範囲内で適正額)※事前の届出が必要 |
| 赤字の繰越 | 原則できない | 翌年以降3年間 |
| 帳簿・書類の保存 | 必要(原則5年) | 必要(原則7年) |
青色申告ができるのは、事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかがある人です。医科・歯科クリニックを開業して診療で得る収入は事業所得にあたるため、開業医は青色申告の対象になります。勤務医が受け取る給与は給与所得なので、給与しかない年は青色申告の対象になりません。開業前でも、事業を始めることが決まっていれば承認申請を提出できます。
勤務医の副業やアルバイトを含めた申告の考え方は、医師の確定申告(複数勤務・副業の申告)で詳しく説明しています。
青色申告のメリットは、「所得を減らせる控除」「家族への給与」「赤字の活用」「経費計上の枠」「対外的な信用」の5つに整理できます。順番に見ていきます。
青色申告の最大のメリットが、青色申告特別控除です。所得金額から一定額を差し引けるため、所得税・住民税・国民健康保険料の負担が下がります。控除額は3段階です(国税庁 No.2072 青色申告特別控除)。
| 控除額 | 主な要件 |
|---|---|
| 10万円 | 青色申告の承認を受けている(記帳は簡易でも可) |
| 55万円 | 事業所得または事業的規模の不動産所得を複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書を添付して期限内に申告する |
| 65万円 | 55万円の要件に加えて、e-Taxで申告する、または一定の要件を満たした優良な電子帳簿を保存する(事前の届出が必要) |
55万円・65万円の控除は、期限内申告が条件です。還付申告の場合も、翌年3月15日までに申告しないと10万円控除に下がります。
節税額の目安:課税所得が高い人ほど効果は大きくなります。所得税と住民税を合わせた負担率が約30%の人なら、65万円控除でおよそ19万5千円の負担減です。税率の考え方は累進課税とは?日本の所得税の仕組みを税理士がやさしく解説で解説しています。
2027年分から控除額が変わります:令和8年度税制改正により、令和9年分(2027年分)の所得税から青色申告特別控除が再編されます。
住民税への反映は令和10年度分からです。75万円・65万円をねらう場合、2026年のうちにe-Taxと電子帳簿の準備を進めておくと切り替えがスムーズです。
生計を同じくする配偶者や親族にクリニックの仕事を手伝ってもらい給与を支払う場合、青色申告なら、届け出た金額の範囲内で、労務の対価として適正な金額を必要経費にできます。白色申告の事業専従者控除は配偶者86万円・その他の親族50万円という定額の上限があるため、青色のほうが柔軟です(国税庁 No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除)。
対象になるのは、その年の12月31日時点で15歳以上で、その事業に6か月を超えて専ら従事している家族です。事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しておく必要があります。提出期限は原則その年の3月15日まで、1月16日以降に開業した場合や新たに専従者が加わった場合は、その日から2か月以内です。
給与額は、仕事の内容や時間に見合った金額にします。届出に書いた金額の範囲内であることも必要です。相場からかけ離れた高額な給与は、税務調査で否認されることがあります。
開業初年度や大きな設備投資をした年は、赤字になることがあります。青色申告なら、その赤字を将来または過去の黒字と相殺できます。
繰越控除:事業などで生じた赤字(純損失)は、原則として翌年以降3年間の所得から差し引けます。赤字が出た年から連続して確定申告をしていることが条件です。令和5年4月1日以後に発生した特定非常災害による損失で、事業用資産の損失割合が一定以上の場合は、繰越期間が5年に延長されます。
繰戻し還付:前年も青色申告をしていれば、その年の赤字を前年の所得に繰り戻し、前年に納めた所得税の還付を受けることを選べます。早く資金を戻したい場合に使えます。
青色申告には、白色申告にはない経費計上の特例があります。
少額減価償却資産の特例:通常、10万円以上の備品は数年に分けて減価償却します。青色申告なら、令和8年4月1日以後に取得した1個40万円未満の備品を、購入した年に全額経費にできます(それ以前の取得は30万円未満。いずれも1年間で合計300万円まで)。診療用の機器や什器をそろえる開業期に効果があります。
貸倒引当金:売掛金や未収金のうち、将来回収できなくなりそうな分をあらかじめ見積もって経費に計上できます。複式簿記で貸借対照表を添付する青色申告者は、年末の一括評価の債権額の5.5%(金融業は3.3%)まで繰り入れられます。保険診療の未収金がある医科・歯科クリニックでは使いやすい制度です。
複式簿記でつくる貸借対照表・損益計算書は、事業の財産と損益を正しく示す資料です。金融機関からの融資や補助金の申請で、事業の状況を説明する材料になります。根拠となる帳簿・書類を原則7年間保存しておくことで、あとから内容を確認されても対応できます。
青色申告のデメリットは、記帳の手間と期限管理に集約されます。ここを外すと、せっかくの控除が受けられなくなります。
55万円・65万円の控除を受けるには、複式簿記で帳簿をつけます。1つの取引を「借方」「貸方」の2面から記録する方法で、仕訳帳・総勘定元帳をもとに貸借対照表と損益計算書を作ります。簿記の知識がないと手作業では負担が大きいものの、クラウド会計ソフト(マネーフォワード、freeeなど)を使えば、銀行口座やカードの明細を取り込んで自動で仕訳でき、手間はかなり減ります。10万円控除であれば、簡易な記帳(お小遣い帳に近い方式)で足ります。
青色申告では、帳簿と決算関係書類、領収書などを原則7年間保存します。前々年分の事業所得・不動産所得が300万円以下の人は、現金預金取引等関係書類以外の書類などが5年保存でよいとされています。消費税の課税事業者は、請求書等やインボイスの写しを7年間保存します。保存場所と保存年数を決めておかないと、後から探せず税務調査で不利になります。
青色申告には2つの期限があります。
承認申請の期限:青色申告をしたい年の3月15日まで。その年の1月16日以降に開業した場合は、開業日から2か月以内です。この申請を出し忘れると、その年は白色申告になります。
確定申告の期限:原則、翌年3月15日まで。期限内に申告しないと、55万円・65万円の控除は受けられず、10万円控除だけになります。
メールやウェブサイトで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、紙に印刷して保存するだけでは足りず、データのまま保存する必要があります。原則として、改ざん防止の措置をとる、「日付・金額・取引先」で検索できるようにする、といった要件があります。ただし、所轄税務署長が「相当の理由」があると認める場合は、これらの要件を満たさずデータを保存しておくだけでよい猶予措置があります。65万円控除で使う「優良な電子帳簿」の保存は、これとは別に、さらに細かい要件を満たしたものを指します。
青色申告は、次の3ステップで始められます。開業したばかりの年は①の期限が特に短いので注意してください。
納税地を管轄する税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。提出期限は、青色申告をしたい年の3月15日まで。その年の1月16日以降に開業した場合は、開業日から2か月以内です。開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)と一緒に出すとスムーズです。e-Taxでも提出できます。一度承認されれば、取りやめの届出をしない限り、翌年以降も青色申告が続きます。
日々の取引を複式簿記で記録し、仕訳帳・総勘定元帳を作ります。年末には貸借対照表・損益計算書(青色申告決算書)を作成します。クラウド会計ソフトを使い、銀行口座・クレジットカード・レジのデータを連携しておくと、入力の大部分が自動化されます。診療報酬の入金、リース料、スタッフの給与など、クリニック特有の取引の仕訳を最初に決めておくと、毎月の作業が安定します。
当事務所は医療機関専門の税理士事務所として、日々の記帳から確定申告、6か月ごとの決算予測まで一貫してサポートしています。青色申告の記帳体制づくりや、要件を満たしながら手間をかけない運用についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。
55万円控除の要件(複式簿記+貸借対照表・損益計算書+期限内申告)を満たしたうえで、次のいずれかを行うと65万円控除になります。
開業医の多くは、クラウド会計ソフトからそのままe-Taxで提出する形が現実的です。2027年分からは65万円控除にもe-Taxが必須になるため、早めに切り替えておくと安心です。
医科・歯科クリニックを個人で開業する場合、青色申告はほぼ必須の選択です。開業期に特有の注意点を2つ挙げます。
開業初年度は、開業届・青色申告承認申請書・青色事業専従者給与に関する届出書・給与支払事務所等の開設届出書など、提出物が集中します。青色申告承認申請書の期限は「開業日から2か月以内」と短く、この1枚を出し忘れると初年度は白色申告になり、赤字を繰り越せず、65万円控除も使えません。開業前後のスケジュールづくりは、クリニック開業で税理士はいつから?依頼時期の目安を解説を参考にしてください。
社会保険診療報酬が年5,000万円以下で、かつ医業・歯科医業からの収入金額が年7,000万円以下の開業医は、実際の経費に代えて「概算経費」で所得を計算できる特例(租税特別措置法26条)を選べます。概算経費を使う場合でも青色申告はでき、青色申告特別控除もあわせて受けられます。実額経費と概算経費のどちらが有利かは毎年変わるため、両方で試算して選びます。判定の考え方は医師・歯科医師の概算経費(措置法26条)の有利不利を解説で説明しています。
青色申告特別控除はほとんどの個人事業主にメリットがありますが、次に当てはまる人は効果がさらに大きくなります。
医科・歯科クリニックの開業医は、これらの多くに当てはまります。個人で開業する時点で青色申告を選んでおくのが基本です。
複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書を添付して期限内に申告することが前提です。そのうえで、e-Taxで申告するか、優良な電子帳簿を保存するかのどちらかを満たします。期限を1日でも過ぎると10万円控除に下がります。
令和9年分(2027年分)から、現行の65万円控除が75万円に、55万円控除が65万円に引き上げられます。ただし65万円控除にもe-Taxでの申告が必須になり、紙で複式簿記のみの場合は10万円に下がります。早めにe-Taxと電子帳簿の準備を進めておくと安心です。
事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を出し、届け出た金額の範囲内で、仕事の内容に見合った適正な金額であれば必要経費にできます。白色申告の事業専従者控除(配偶者86万円・その他50万円が上限)より柔軟です。届出の期限(原則3月15日、開業や専従開始からは2か月以内)に注意してください。
原則3年です。赤字が出た年から連続して確定申告をしていることが条件です。特定非常災害による損失などは5年に延長されます。
原則7年です(一部の書類は5年)。メールなどで受け取った電子取引データは、データのまま一定のルールで保存する必要があります。
切り替えたい年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出します。たとえば2027年分から青色にしたい場合は、2027年3月15日までに提出します。
クラウド会計ソフトを使えば、口座やカードの明細から自動で仕訳ができ、決算書やe-Tax用のデータも作成できます。知識がなくても始められますが、勘定科目の設定や期末の処理に迷ったときは税理士に相談すると確実です。
医科・歯科クリニックを個人で開業する場合、青色申告承認申請書の提出期限は開業日から2か月以内と短く、出し忘れると初年度は白色申告になります。開業のタイミングで必ず提出しておきましょう。
松村洋佑税理士・行政書士事務所では、医科・歯科クリニックの記帳から確定申告、6か月ごとの決算予測まで一貫してサポートしています。要件を満たす顧問先はすべて青色申告で対応しており、手間をかけずに65万円控除の要件を満たす体制づくりもお手伝いします。青色申告の届出や記帳でお困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。対応エリアは医科・歯科クリニックに強い税理士|対応エリアをご覧ください。
※2026年9月2日時点の情報です。
この記事を書いた人
松村 洋佑(まつむら ようすけ)
税理士(登録番号 145479)/行政書士(登録番号 24083412)
松村洋佑税理士・行政書士事務所 代表。医科・歯科クリニックの税務顧問を専門とし、開業支援から医療法人化・事業承継まで一貫して対応しています。東京都練馬区・西武新宿線武蔵関駅徒歩3分。
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