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倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、掛金が全額損金になることから「節税になる」と勧められることの多い制度です。ただし解約時には税金がかかるうえ、令和6年の改正で使い勝手が変わった部分もあり、入ってから後悔するケースもあります。この記事では、メリット5つとデメリット7つ、そして開業医が加入を判断するときのポイントを税理士が解説します。
■ この記事の結論(先にお伝えします)
倒産防止共済は、取引先が倒産して売掛金などが回収できなくなったときに、連鎖倒産を防ぐための借入れができる国の共済制度です。正式名称は「中小企業倒産防止共済制度」で、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています(制度の詳細:中小機構 経営セーフティ共済)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 掛金 | 月額5,000円〜20万円(5,000円刻み・増減可能) |
| 積立の上限 | 掛金総額800万円まで |
| 共済金の借入れ | 取引先の倒産時、掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで無担保・無保証人 |
| 一時貸付金 | 取引先の倒産がなくても、解約手当金の95%を上限に借入れ可能 |
| 解約手当金 | 掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上、40か月以上で全額が戻る |
| 税務上の扱い | 法人は損金、個人事業主は必要経費に算入できる |
積み立てたお金は掛け捨てではなく、40か月以上続ければ解約時に全額戻ります。「損金にしながら手元資金の備えを作れる」点が、この制度が広く使われている理由です。
加入できるのは、引き続き1年以上事業を行っている中小企業者(会社または個人事業主)です。業種ごとに資本金または従業員数の要件があり、サービス業なら「資本金5,000万円以下または従業員100人以下」です(加入資格:中小機構)。
注意したいのは、医療法人は加入できないことです。加入資格があるのは会社と個人事業主で、医療法人は対象外と明記されています。個人開業医の時代に加入していた場合、医療法人成りの時点で解約することになります。この点は後半のデメリットで詳しく説明します。
掛金は法人なら損金、個人事業主なら必要経費に全額算入できます。月額の上限20万円で積み立てると年間240万円を利益から差し引ける計算です。たとえば法人税等の実効税率が30%なら、その年の税負担は約72万円軽くなります。
さらに1年分の前納も損金にできるため、利益が大きく出た期の決算対策として、期末に翌年分をまとめて払う使い方が定番になっています。ただし後述するとおり、この効果は「節税」というより「課税の繰り延べ」です。仕組みを理解したうえで使う必要があります。
取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったとき、掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで、無担保・無保証人で共済金の借入れができます。担保も保証人も不要で、手続きも比較的早く進むため、連鎖倒産を防ぐ最後の砦として機能します。
取引先の倒産がなくても、解約手当金の95%を上限に「一時貸付金」の借入れができます(30万円以上・5万円単位、掛金納付12か月以上が条件)。急な資金需要が出たときに、共済を解約せずに手元資金を確保できる仕組みです。
取引先倒産時の共済金借入れは無利子です。そのかわり、借入額の10分の1に相当する金額が積み立てた掛金から控除されます。実質的にはこの控除が利息に相当しますが、緊急時に金利負担なしで資金調達できる意味は大きいです。
掛金月額は5,000円から20万円の範囲で増額・減額ができます。業績のよい年は増やし、資金繰りが厳しい年は最低額まで下げる、という調整が可能です。決算対策の自由度が高いのはこのためです。
掛金の納付が12か月未満で解約すると、解約手当金はゼロです。12か月以上でも40か月未満の解約では掛金総額の8割程度しか戻らず、元本割れします。全額が戻るのは納付40か月以上からです。短期で解約する可能性があるなら、そもそも向いていない制度です。
引き続き1年以上事業を行っていることが加入条件のため、開業したての時期には入れません。開業1年目の節税策としては使えない点に注意してください。
掛金を損金にできる一方で、解約手当金を受け取ると全額が法人の益金(個人は事業所得の収入金額)になります。つまり掛金を払った年の税金が減り、解約した年にまとめて課税される——税金が消えるのではなく、先送りされているだけです。
この制度で本当に得をするには、解約手当金を受け取る年に大きな損金をぶつける「出口」が必要です。役員退職金の支給年や大規模な設備投資・修繕の年に合わせて解約するのが典型的な使い方で、出口を決めずに積み立てだけ続けると、解約時に高い税率で課税されて逆効果になることもあります。
以前は「解約→再加入」を繰り返して損金算入を続ける使い方がありましたが、令和6年10月1日以後に共済契約を解除した場合、その解除の日から2年を経過する日までに支出する掛金は、再加入しても損金・必要経費に算入できなくなりました(中小機構:税制の特例に関する内容の変更について)。解約と再加入のタイミングは以前より慎重な設計が必要です。
掛金を損金にするには、法人税申告書に別表十(七)と適用額明細書の添付が必要です(個人は掛金の必要経費算入に関する明細書を確定申告書に添付)。ただ払っただけでは損金として認められないおそれがあり、実際に添付漏れを税務調査で指摘される事例もあります。申告を自分でやっている方は特に注意してください。
共済金の借入れ対象になるのは法的整理や取引停止処分など一定の「倒産」に限られます。取引先の夜逃げは、倒産の事実確認が困難なことから借入れの対象になりません。「取引先に何かあれば必ず借りられる」わけではない点は誤解しやすいところです。
医療法人には加入資格がないため、個人開業医が医療法人成りをすると、その時点で解約となり、解約手当金がまとめて収入計上されます。法人成りの初年度は役員報酬の設定などで所得が動きやすい時期でもあり、そこに解約手当金の課税が重なると想定外の税負担になりかねません。医療法人化を視野に入れている方は、加入の段階で「いつ・どう解約するか」まで含めて設計しておく必要があります。法人化を検討する目安はクリニックの医療法人化のタイミングで詳しく解説しています。
向いているのは、当面個人事業のまま続ける方針で、利益が安定して出ている開業医です。損金枠を作りながら、万一への備えと「いざというときの借入枠」を持てます。技工所や卸など取引先との掛取引がある歯科では、本来の連鎖倒産防止の機能も意味を持ちます。
一方、数年内に医療法人化を考えている場合は慎重になるべきです。法人成りの時点で解約・課税になるため、積み立てる期間が短いと「損金にした分が法人化の直前にまとめて戻って課税される」だけの結果になりかねません。40か月(全額戻るライン)を確保できるか、が一つの目安になります。開業1年目で加入資格がない方は、まず小規模企業共済など他の選択肢から検討する順番です。
この制度の損得は「入るか」より「どう出るか」で決まります。解約手当金を受け取る年に、退職金の支給・大型の設備投資・修繕といった大きな損金を用意できれば、繰り延べた税金を低い負担で精算できます。逆に何もない年に解約すると、利益に上乗せされて高い税率で課税されます。解約年を含めた利益と納税の見通しは、決算日の6か月前に行う決算予測で立てられます。
医療法人化のタイミング、設備更新の計画、そして毎年の利益水準——これらを見ながら掛金と解約時期を設計するのが、この共済の正しい使い方です。当事務所は医科・歯科クリニック専門の税理士・行政書士事務所として、日々の記帳から6か月ごとの決算予測、医療法人化の設立手続きまで一貫してサポートしています。「うちの場合は入るべきか」「いつ解約すべきか」といった個別のご相談は、お問い合わせページからお気軽にどうぞ。
Q1. 倒産防止共済と小規模企業共済はどちらを先に入るべきですか?
A. 目的が違います。小規模企業共済は経営者自身の退職金づくり(所得控除)、倒産防止共済は事業の備え+損金枠です。開業医はまず小規模企業共済を検討し、利益水準に応じて倒産防止共済を上乗せする順番が一般的です。詳しくは小規模企業共済のメリット・デメリットをご覧ください。
Q2. 医療法人でも倒産防止共済に入れますか?
A. 入れません。加入できるのは会社と個人事業主で、医療法人は対象外です。個人時代に加入していた場合は法人成りの時点で解約となり、解約手当金が課税対象になります。
Q3. 掛金はいくらに設定するのがよいですか?
A. 月5,000円〜20万円で自由に設定・変更できます。無理に上限で入る必要はなく、資金繰りに響かない金額で始めて、利益の出た年に増額や前納で調整するのが安全です。
まずは自院の利益水準と医療法人化の予定を確認し、「出口」を決めてから加入を判断してください。判断に迷う場合は当事務所へご相談ください。訪問対応エリアは対応エリア一覧をご覧ください。
※2026年8月28日時点の情報です
この記事を書いた人
松村 洋佑(まつむら ようすけ)
税理士(登録番号 145479)/行政書士(登録番号 24083412)
松村洋佑税理士・行政書士事務所 代表。医科・歯科クリニックの税務顧問を専門とし、開業支援から医療法人化・事業承継まで一貫して対応しています。東京都練馬区・西武新宿線武蔵関駅徒歩3分。
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