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■ この記事の結論(先にお伝えします)
小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、小さな会社の役員や個人事業主のための退職金制度です。会社員には退職金がありますが、事業主には用意してくれる人がいません。自分で毎月積み立てて、廃業や退職のときにまとめて受け取る仕組みです。小規模企業共済法(昭和40年法律第102号)にもとづく制度です。
加入できるのは、業種ごとに決められた人数以下の従業員を使用する個人事業主と会社役員です。
| 業種 | 常時使用する従業員数 |
|---|---|
| 建設業、製造業、運輸業、不動産業、農業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)など | 20人以下 |
| 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 |
医科・歯科の診療所は、実務上「サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)」として整理し、常時使用する従業員が5人以下であることが目安になります。常勤スタッフを多く抱える診療所は、そもそも加入資格を満たしません。業種区分の最終的な判断は中小機構が行うため、加入前に窓口で確認してください。
なお、常時使用する従業員には家族従業員と臨時の従業員は含みません。
次に当てはまる人は加入できません。
医療法人の理事が加入できないのは、この3番目に当てはまるためです。詳しくは後の章で説明します。
掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円きざみで自由に決められます。年間に直すと最大84万円です。
途中で増額も減額もできます。事業が伸びたら上限まで増やす、資金繰りが苦しくなったら下げる、という調整が可能です。掛金を1年分まとめて前払いする「前納」もでき、前納した分もその年の所得控除に含められます。年末に利益が読めてから納税額を調整する手段として使えます。
掛金は口座振替で毎月18日(休日の場合は翌営業日)に引き落とされます。事業の必要経費にはできず、あくまで契約者本人の所得から控除する点に注意してください。
受け取る理由によって、共済金の名前と金額が変わります。
| 種類 | 主な受取事由 | 受給に必要な納付月数 |
|---|---|---|
| 共済金A | 個人事業の廃業、契約者の死亡 | 6か月以上 |
| 共済金B | 老齢給付(65歳以上かつ180か月以上納付)、会社等役員の疾病・負傷・65歳以上による退任 | 6か月以上 |
| 準共済金 | 法人成りして役員に就任しなかった場合など | 12か月以上 |
| 解約手当金 | 任意解約、12か月以上の掛金滞納による解除 | 12か月以上 |
同じ金額を積み立てても、やめ方によって手取りが大きく変わるのがこの制度の特徴です。金額の水準は共済金A、共済金B、準共済金、解約手当金の順に低くなります。事業をやめたときの給付を手厚くし、自己都合の解約を低く抑える設計です。
小規模企業共済の魅力は、節税と将来の備えを同時に進められる点にあります。ここでは代表的な5つを順に見ていきます。
払った掛金は、その年の所得から「小規模企業共済等掛金控除」として全額差し引けます(国税庁 タックスアンサー No.1135)。上限で頭打ちになることがなく、払った金額がまるごと課税所得を圧縮します。1年以内の前納掛金も同じように控除できます。
控除といっても、実際にいくら税金が減るのかがわからないと判断できません。中小機構が公表している節税額の一覧表が次のとおりです。
| 課税所得 | 月1万円 | 月3万円 | 月5万円 | 月7万円(年84万円) |
|---|---|---|---|---|
| 200万円 | 20,700円 | 56,900円 | 93,200円 | 129,400円 |
| 400万円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 241,300円 |
| 600万円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 255,600円 |
| 800万円 | 40,100円 | 120,500円 | 200,900円 | 281,200円 |
| 1,000万円 | 52,400円 | 157,300円 | 262,200円 | 367,000円 |
所得税は所得が高いほど税率が上がる累進課税のため、同じ84万円を掛けても、所得が高い人ほど戻ってくる税金は大きくなります。課税所得1,000万円で月7万円を掛ければ、年間で36万7,000円の差になります。逆に課税所得が少ない年は、節税の効果もその分小さくなります。
個人事業主には退職金がありません。廃業したその日から収入が途切れます。小規模企業共済に加入していれば、廃業や退職のタイミングで共済金を受け取れ、自分で用意した退職金として使えます。
一括で受け取れば退職所得として扱われ、税負担が大きく軽くなります。退職所得は勤続年数(納付年数)に応じた退職所得控除を差し引いた後、さらに2分の1をかけて計算するためです。退職所得控除の額は、20年以下なら40万円×年数、20年を超える部分は1年あたり70万円で計算します(国税庁 タックスアンサー No.1420)。
共済金は「一括受取り」「分割受取り」「一括と分割の併用」から選べます。分割を選ぶには、共済金の額が300万円以上で、共済事由が生じた時点で60歳以上という条件を満たす必要があります。併用の場合は共済金の額が330万円以上です。
分割受取りの期間は10年か15年から選び、年6回(1月・3月・5月・7月・9月・11月)に分けて受け取ります。まとまった資金が要るなら一括、生活費として毎年受け取りたいなら分割と、引退後の生活設計に合わせて選べます。税金の扱いも変わるため、受け取る前に試算しておくと差が出ます。
積み立てた掛金の範囲内で、事業資金などを借りられる制度があります。一般貸付けの限度額は掛金納付月数に応じて掛金の7割から9割で、上限は2,000万円、下限は10万円です。利率は年1.5%で、無担保・無保証人で借りられます。
加入後、貸付資格の判定時(4月末日および10月末日)までに12か月以上の掛金を納付していることが条件です。設備の入れ替えや一時的な運転資金の穴埋めに使えるため、積み立てたお金が完全に凍結されるわけではない、という安心材料になります。
節税効果が大きい制度ですが、途中でやめると損をする設計になっています。加入前に知っておきたい落とし穴を6つ挙げます。
自分の都合で解約する場合、掛金の納付月数が12か月未満だと解約手当金は一切支給されません。払ったお金がそのまま消えます。
「とりあえず今年の節税のために入っておく」という短期目的の加入が、いちばん危険な使い方です。
12か月を超えても、解約手当金の支給率は12か月以上84か月未満で80%です。84か月目から6か月単位で段階的に上がり、240か月(20年)以上246か月未満でようやく100%に達します。それ以降さらに増え、最高で120%です。
15年ほど掛けて解約した場合でも、払った額を下回ります。20年続けられるかどうかが、加入を決める最大の分かれ目です。
ただし元本割れするのは「任意解約」の場合です。廃業や死亡による共済金Aであれば納付6か月以上、法人成りによる準共済金であれば納付12か月以上で受け取れ、掛金合計額を下回りません。やめる理由によって結論が正反対になる点に注意してください。
なお、掛金月額を途中で変更している場合は、納付月数が240か月以上あっても掛金合計額を下回ることがあります。
掛けるときに所得控除を受けた分、受け取るときには課税されます。制度としては課税の先送りです。
| 受取方法 | 税金の扱い |
|---|---|
| 一括受取り(死亡以外) | 退職所得 |
| 分割受取り | 公的年金等の雑所得 |
| 準共済金 | 退職所得 |
| 法人成りに伴う解約手当金 | 退職所得 |
| 任意解約 | 一時所得(65歳以上は退職所得) |
| 死亡による受取り | 死亡退職金として相続税の対象 |
退職所得は税負担が軽い一方、任意解約で一時所得になると優遇の幅は小さくなります。同じ時期に他の退職金を受け取る予定があると、退職所得控除を取り合う形になり税額が膨らむこともあります。
掛金は1,000円まで減額できます。ただし共済金や解約手当金は、掛金月額を500円ごとに区分した「掛金区分」ごとに納付月数を数えて計算します。減額すると、減らした部分の区分はそこで納付月数の積み上がりが止まります。増減を繰り返した契約は区分ごとに支給割合がばらつき、最終的な受取額が想定より伸びません。
前納すると前納減額金を受け取れますが、金額はわずかです。掛金は一度決めたら動かさずに続けられる金額に設定するのが結局いちばん有利です。
共済金は予定利率にもとづいて算定されますが、その水準は平成16年4月から年1.0%です。物価が年2%上昇する局面では、額面が増えてもお金の価値は目減りします。
小規模企業共済は「増やす制度」ではなく「節税しながら守る制度」です。増やす部分は、運用先を自分で選べる別の制度と組み合わせて考えます。
掛金は事業の状況にかかわらず毎月発生します。赤字の年は所得控除のメリットがほぼ消える一方、支払いだけは残ります。掛金を12か月以上滞納すると契約は解除され、解約手当金の扱いになります。
救済策として「掛止め」があります。所得がなく納付が著しく困難なとき、災害に遭ったときや入院中のときは、6か月または12か月の間、納付を停止できます。ただし掛止めの期間は共済契約期間に算入されず、老齢給付に必要な15年や、退職所得控除の計算年数にも入りません。収入の波が大きい事業では、上限いっぱいではなく無理なく続く金額から始める判断が必要です。
メリットとデメリットを並べただけでは、自分が加入すべきかどうかは決まりません。判断を分けるのは「事業をあと何年続けるか」「所得がいくらあるか」「手元資金に余裕があるか」の3点です。
判断が難しいのは、開業して数年で、これから医療法人化も視野に入る先生です。掛金を上限まで入れて数年後に法人成りすると、準共済金として受け取ることになり、想定していた退職所得控除の年数を使い切れません。どのタイミングで、いくらの掛金で始めるかは、5年先の事業計画と一緒に決める必要があります。
当事務所は医療機関専門の税理士事務所として、日々の記帳から確定申告、6か月ごとの決算予測まで一貫してサポートしています。共済への加入をどう組み立てるかを含め、税務に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。
数年先の利益見通しを立てておけば、掛金をいくらに設定するかの判断もぶれません。当事務所の6か月ごとの決算予測は、こうした資金の振り分けを決めるための材料として使っていただいています。
一般向けの解説には出てこない、医療機関ならではの論点があります。個人開業から医療法人化までを見据えると、共済の使い方は大きく変わります。
小規模企業共済に加入できるのは、個人事業主と会社の役員です。制度のしおりには、加入資格のない人として「協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、社団法人など、直接営利を目的としない法人の役員等」が明記されています。医療法人の理事は、この規定によって加入できません。
つまり、個人でクリニックを開業している間は加入できても、医療法人化した時点で資格を失います。法人成りした後に新規で入り直すこともできません。
資格を失うといっても、掛けたお金が消えるわけではありません。法人成りしてその会社の役員に就任しなかった場合や、役員たる小規模企業者に該当しない場合は「準共済金」として受け取ります。医療法人の理事は小規模企業者に該当しないため、このケースに当てはまります。
準共済金は任意解約と違い、掛金納付月数が12か月以上あれば受け取れ、222か月(18年6か月)までは掛金合計額と同額です。223か月以降は共済金Bの91%相当額になります。受け取った一時金は退職所得として扱われるため、税負担も抑えられます。「20年未満だから元本割れする」という一般的な説明は、法人成りのケースには当てはまりません。
ここを誤解して「まだ10年だから解約すると損をする」と考え、法人化を先送りする先生がいます。実際には法人化のタイミングと共済の損得は切り離して判断できます。医療法人化の判断は所得の水準で決めるべきもので、共済がブレーキになる理由にはなりません。
同じ中小機構の制度に、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)があります。名前は似ていますが、目的も税務上の扱いも別物です。
| 項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 |
|---|---|---|
| 目的 | 経営者個人の退職金 | 取引先倒産時の資金繰り対策 |
| 掛金の上限 | 年84万円 | 年240万円 |
| 掛金の扱い | 全額を所得控除(必要経費にはできない) | 必要経費または損金 |
| 医療法人 | 加入不可 | 加入不可 |
経営セーフティ共済も医療法人は加入できません。個人開業医は加入できますが、法人化を予定しているなら出口を先に考えておく必要があります。詳しくは倒産防止共済のメリット・デメリットの記事で解説しています。
両方を上限まで掛けると、年間324万円が手元から出ていきます。手元資金が痩せて設備投資に対応できなくなるため、優先順位をつけて始めてください。
制度の中身が決まったら、あとは書類を整えるだけです。手続き自体は複雑ではありません。
契約は申込日に成立し、40日程度で共済手帳などの書類が届きます。掛金の口座振替は申込月の翌々月から始まります。
なお、確定申告書や開業届の控えは、税務署への提出事実が確認できるものが必要です。令和7年1月から控えへの収受印の押なつが行われなくなったため、e-Taxの受信通知などを添える形になります。
受け取る理由によって手続きの書類も金額も変わるため、やめると決める前に、どの区分に当てはまるかを確認してください。廃業なら共済金A、法人成りなら準共済金、自己都合なら解約手当金です。同じ「やめる」でも手取りが数十万円単位で変わります。
廃業や法人成りをしても、1年以内に手続きをすれば掛金納付月数を通算して契約を続けられる制度があります。新たに個人事業を始める場合や、会社等の役員に就任する場合が対象です。共済金を受け取らずに納付月数を引き継げるため、事業を続ける予定があるなら検討する価値があります。
退職金や他の一時金を同じ年に受け取る予定がある場合は、受取年をずらすだけで税額が変わることがあります。金額が大きくなるほど、事前の試算が効きます。
任意解約の場合は、掛金納付月数が240か月(20年)以上246か月未満で解約手当金の支給率が100%になります。それより前にやめると元本割れです。ただし廃業による共済金Aは6か月以上、法人成りによる準共済金は12か月以上で掛金合計額を下回らないため、20年待つ必要はありません。
運営しているのは独立行政法人中小企業基盤整備機構です。共済金や解約手当金の額は小規模企業共済法施行令の別表で定められており、法律にもとづいて支払われます。ただし予定利率は過去に6.6%から4.0%、2.5%、1.0%へと引き下げられており、経済情勢によって将来の給付水準が見直される可能性はあります。変更前の期間に対応する分は変更前の利率で保証される仕組みです。
小規模企業共済は「経営者個人の退職金」で、掛金は所得控除です。経営セーフティ共済は「取引先が倒産したときの資金繰り対策」で、掛金は必要経費または損金になります。どちらも医療法人は加入できません。目的も出口も別の制度なので、分けて考えてください。
加入資格を失うため、契約は終了します。掛けてきたお金は準共済金として受け取ることになり、一括で受け取れば退職所得として課税されます。掛金納付月数が12か月以上あり222か月までであれば、掛金合計額を下回りません。
できます。1,000円まで500円単位で減額でき、手続きも簡単です。ただし共済金は掛金区分ごとに納付月数を数えて計算するため、減らした部分の区分はそこで納付月数が止まり、将来の受取額は想定より伸びません。減額を前提にせず、続けられる金額で始めるほうが結果的に有利です。
所得がなければ所得控除の効果は出ません。赤字が続く見込みなら、掛金を最低額の1,000円まで下げて契約を維持し、納付月数だけ積み上げる方法があります。所得がなく納付が著しく困難な場合は掛止めも使えます。解約してしまうと、それまでの納付月数がゼロに戻ります。
小規模企業共済は、掛けている間の節税と将来の退職金を同時に用意できる制度です。一方で、途中でやめると損をする設計であり、医療法人化を予定している先生は出口まで含めて設計する必要があります。掛金をいくらにするかは、目先の税額ではなく5年先の事業計画から逆算して決めてください。
当事務所は医科・歯科クリニック専門の税理士事務所として、日々の記帳から確定申告、6か月ごとの決算予測、医療法人化までを一貫してサポートしています。共済への加入をどう組み立てるか、法人化のタイミングとどう合わせるかも含めて、ご相談は無料でお受けしています。お気軽にお問い合わせください。
※2026年8月29日時点の情報です。
この記事を書いた人
松村 洋佑(まつむら ようすけ)
税理士(登録番号 145479)/行政書士(登録番号 24083412)
松村洋佑税理士・行政書士事務所 代表。医科・歯科クリニックの税務顧問を専門とし、開業支援から医療法人化・事業承継まで一貫して対応しています。東京都練馬区・西武新宿線武蔵関駅徒歩3分。
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